20冊書評Vol4.阿部真大著「搾取される若者たち」

搾取される若者たち ―バイク便ライダーは見た! (集英社新書)
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ちょっとご無沙汰。
書評なんだけど大事な部分を太字とか赤線にして読みやすくしようと思った。


内容
「やりたいことを見つけなさい」「好きなことを仕事にすればいい」といった考えが社会に浸透している。この考えに「ちょっとまった」をかけたものが本書だ。

好きなことを仕事にして、生活が安定すればそれは幸せであろう。だが、それが不安定な就業形態で行われたとき人はワーカーホリックに陥りかねず、大変危険である。ニートが社会問題化している。だが、好きなことが仕事に出来ないニートと、好きなことが仕事にできたワーカーホリックは実は紙一重なのである。今現在、若者の間でこうした二極化が進んでいる。


筆者は大学院で労働社会学を学ぶ途中に、大学を休学してバイク便のライダーをしていた。
そこには趣味を仕事にし、仕事により趣味を更新し、また仕事に向かう・・・というバイク便ライダーがワーカーホリックに陥っていく姿が書かれていた。職場にそのようなトリックがいくつも巧妙に仕掛けられているからだ。


だが、そこには猛スピードで公道を走りぬけ、常に排ガスを吸い、そして危ないすり抜けを繰り返している危険な世界であった。ライダーとしての限界はいつか来る。中にはその危険を訴えるものもいる。ところが、職場のトリックはそれを許さないのだ。


このように、職場にはライダーを陥れる、さまざまなトリックがある。これは経営者が仕掛けたものではなくトリックは職場自体にあるという。だが、それでも経営者はトリックの裏で甘い蜜を吸っている。


そういえば、所謂団塊ジュニアといわれる世代は、その意味も問わずに、その先にどのような未来があるかも教えられずにただ「競争」「競争」といわれ続け限りあるパイを奪い合っていた。同じ世代でばかり争っていた。しかし、そろそろ気がついたほうがいい。ライダーが戦う相手は同じライダーではないことに。



この本は、評論本やノウハウ本というより、筆者自身の体験から書いたルポルタージュに近い。
著書内でも「アトラクション」と書いてあるとおり、非常に読みやすく、むしろワクワクして読めた。
だが、非常に労働という本質的なところを突いている。


ところで、「文句を言わずに働く」という形態は、「文句を言うが働く」よりもはるかに経営者にとって究極に使いやすい形態である。
そして、「戦わずして勝つ」というのも血を流さないので勝利が得られて、これまた究極の形態だ。


「好きなことを仕事にする」という世の中にはびこる売り文句をがトリックを作り、経営者にとって究極な形態を産む。
「好きなことを仕事にする」という一見夢に満ちた言葉が使い方によって非常に危険なプロパガンダのようなものになっているという事実を鋭く突いた良書である。


私は、世の中に出て、働いてみて初めて、世の中を知らないこと、働くということを知らないということを知った。そして、知らない限り、永久に経営者の言いなりと職場のトリックにはまったままである。そんなことを自覚するには最良の書だ。